心が健康になる仮説と不健康になる仮説

心が健康になる仮説と不健康になる仮説

 ある研修会で、講師の精神科医が「私は、不健康になる仮説が欲しい」と言いました。これは、健康が損なわれる原因を知りたいということです。原因が分かれば、その原因を取り除けば治るだろうという考え方です。医師の仕事は、罹患を治す事ですから、病気になった原因を突き止めようという発想になります。確かに身体の病気は、こういった考え方が大事です。この病気はこの細菌が原因だとか、このウイルスが原因だとか、この臓器のここがやられているなど、これが原因だという「もの」があるからです。しかし、精神とか心の病は、そう簡単にいきません。なぜなら、精神や心は、現象で実体がないからです。身体の病のように、これが原因だといえる「もの」がないのです。これが原因だろうと結論付けても、主観で判断しているだけなので、本当にそれが原因かどうかを検証できないのです。ですから、精神科医療の活動は、診断一つとっても、医師によって違う診断が出たりして、一般人にはどうしてもわかりにくい様相を呈すことが多くなります。

 臨床心理学の基本は、「健康になる仮説」を探求することだと思っています。心が健康な人は、どうして心を健康にしていられるのかという疑問です。誰でも、現実生活の中で艱難苦難、困難支障に出会います。出会わない人などいません。そして、誰でも、艱難苦難、困難支障に出会うと、ダメだ、無理、できない、どうしたらいいんだ、といったネガティブ、マイナス、納得のいかない思いになります。心的ストレスから、妄想めいたことを考えたり、鬱気分が強くなったり、勝手に不満怒り・懐疑懸念が湧いてきたり、何んでも嫌としか思えなくなったりもします。なのにどうして、多くの人が、心の健康が維持できているのでしょう。大いなる不思議です。

 同じように艱難苦難、困難支障に出会っているのに、心の健康を壊さないで元気な人と、心が不健康になって不適応に陥る人とがいます。いったいその違いは何なのでしょう。それが分かれば、心が不健康になった人は、心の健康を壊さないでやっている人とおなじようにすれば、心が健康になれるはずです。こんな発想が、臨床心理学の「健康になる仮説」です。

 さて、健康な人は、ネガティブ、マイナス、納得のいかない思いになったら、どのように心を遣って健康を保っているのでしょう。

 一つの例として、反りの合わない相手がいて、その相手と二人で仕事をしなくてならない困難状況に置かれると、どのように心を遣って心の健康を壊さないようにするか考えてみましょう。

 反りが合わない相手ですから「嫌な奴で、こいつと合わねーな」とか思います。何のしがらみもなく、生の気持ちをストレートに出していれば、心のストレスは生じませんし、何より二人で仕事をしないで済めば全てが解決します。しかし、環境がそう都合よく変わることはなく、ともかくこの嫌な相手と仕事をしなければなりません。ですから、「嫌な奴で、こいつと合わねーな」と思いながらも「仕事の間だけ、うまくやろう」「無視して、やろう」「どっち付かずで、やろう」などと何かしらの適応するための思いを創ります。創る思いの内容は、その人の性格や場の状況で変わりますが、自分が好ましいと思う適応をするために何んらかの思いを創ります。どんな内容の思いでも思いが創れることが、適応機制が働いている心の健康な状態です。逆に適応機制が働かなくなって、思いが創れなくなることが心の不健康な状態です。

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