「思い」と「行動」の原理

「思い」と「行動」の原理

 「思うだけではダメだ、行動しなくては」「結果が出せないなら、思ってみたって意味がない」というのが一般の通念です。一般の人は、思いと、行動を分けて考える習慣がなく、思いを創ることよりも、行動ばかりを気にすることになりがちです。「しなさい」「すればいいでしょう」「すべきでしょう」「どうしてしないの」といった、行動を促す発言ばかりになっています。促された相手が「やってみるか」と思いを創ると行動しますが、殆どの場合、行動するための思いを創らないので行動はしません。

 人間の行動には、必ず思いが伴っています。思いが伴わない行動はありません。思うことがあって初めて行動します。「メシを食うか」と思って食事をするし、「トイレへ行こう」と思ってトイレへ行きます。「寝るか」「何もしないで休もう」とか、すべて思って行動します。行動をするには、必ず思ってみることが必要だし、思いが無いところに行動は生じません(反射と衝動だけは、思いが伴わない例外行動だと言われています)。思ってみると、思ってみたことが自分自身に作用して、それが行動になる現象を、「思い」と「行動」の原理と言っています。

 この原理を知っていると、読心法や暗示法が理解できます。読心法は、相手が何を思ったかを察知する方法です。ここでは、単に行動という文言を使っていますが、行為だけが行動ではありません。表出行動といって、表情、態度、身振り、素振り、雰囲気、動作など、心身表現として現れるすべてのものを指します。ある行動には、その行動をするために思ったことがあるという原理に基づいて、表出行動から思ったことを推測できます。心の全てが分かる訳ではありませんが、相手の行動を見ていれば、その行動をするための思いを創ったことが分かります。ノンバーバルコミュニケーションなどはこの原理で行うもので、心理臨床では、言葉の対話より重視されているものです。

 暗示法とは、思ってみると思ったことが表出行動になる原理に基づいて行うものです。例えば、炎天下で「寒いなー」と思ってみることをすると、体温が下がるという反応が生じます。実感がなくても、絵空事でも、戯言でも、思ってみることをすると、心を働かせることをした結果として、思ってみることをした自分自身が変わります。

 イメージトレーニングは、思ったことが表出行動になる原理で行うものです。言い換えると、暗示法そのものとも言えます。例えば、トカチェフという難易度の高い鉄棒の技を習得するのに、最初から身体を動かす訓練やトレーニングをすると、何度も失敗を繰り返しそのたびに誤学習をすることになります。それでも、練習者が上達するのは、成功する時はこのようにするのだろうと空像している理想目標と、失敗体験の間を埋める修正努力をするからです。イメージトレーニングでは、身体を動かす訓練やトレーニングを一切せず、安楽椅子に横になったままで、トカチェフが完璧にできたイメージを思い描くことをします。イメージするのですから、失敗はしないし、スローモーションでも高速映写でも自由自在に操作できますし、毎回完璧に成功することができます。全く誤学習の無い完全学習が脳に成立します。実際に身体を動かして習得する方法でも、脳は何を習得しているのかというと、運動感覚や動体感を覚えているわけで、イメージトレーニングで体験習得しているものと基本軸は同じです。しかし、全くの等質ではあり得ないので、イメージトレーニング後に、実際に身体を動かしてやってみて、先行習得した成功イメージ体験の微調整をしていきます。この手法ですると、難易度の高い困難な技も、実にスムーズにで習得できるのです。

 思ってみることをすると、思ってみることをしている自分が変わり、その変化が表出行動になるという原理を理解しておきましょう。この原理を知っているだけでも、心理療法がうまく運ぶ助けになると思います。

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